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  • 実践!~Gipsy Rumba ダンス・レッスン【初級編】 2

    (11)アルルよ、また会う日まで

    ようやく演奏が終わったようでメンバー達が引き上げてきた。
    しかし彼らは全く疲れたそぶりを見せずに、何事もなかったかのように椅子に腰掛けて、全然関係ないおしゃべりを始めたりした。
    なんなんだ、このクールさは。かっこいい・・・。

    Julioが言うには演奏はまだまだ続くらしい。
    休憩の間、AntonieとJr.を相手にしてギターで遊んでいたが、それを見たJulioが「次はLuisも出るんだ」と言ってきた。
    「おー、実は待ってたよその言葉!」とフランス語風に日本語で言って立ち上がった。

    突然の出番到来。がんばるぞー!

    先ほどの客達はまだ同じ部屋にいて、わいわい騒いでいた。
    そこで今度は5人でライブ開始!
    「お、何だあの怪しい東洋人は?」という訝しい目で見る人は誰もいなかった。
    むしろこの珍妙なる異邦人を暖かく迎え入れてくれた気がした。
    Julioが「日本のジプシー、タダーキ!」と紹介してくれた。「Luis」と言わず本名で紹介してくれたところが照れくさい。
    自分もすぐに演奏の流れをつかみ、Gitano Familyのスタイルを吸収していった。

    パーティー会場のすぐ横に気持ちの良いテラスがあり、徐々に人々は外に出て行った。
    やがてGitano Familyに導かれるように、中にいた客達がみんな外へ移動してきた。
    熱気に満ちた屋内より、涼しい野外が何倍も気持ちいい。

    さあ、ここでも司会兼エンターティナーはJulio。
    なにやら号令をかけて、客達もそれに習って叫んでいる。もはや「演奏者」と「客」という垣根は吹き飛び、一つのFamilyが形成されているかのようだった。
    心地よい空気に酔いしれる客達にシャンパンが配られる。
    メンバーにも配られ、Julioが何やら叫んで、日本語で「カンパーイ」と音頭をとった。客達もそれに続いて「カンパーイ」「チンチーン」だのなんだの言う。面白くなってきた。

    Gitano Family
    その後はほぼ休むことなく演奏をぶっ続けで繰り広げた。
    彼らのレパートリーは無限のように感じる。ほとんど同じ曲はやらず、別の曲を奏で続ける。
    時間の感覚がなかったが、20分くらいぶっ通しでギターを弾いていたと思う。しかも生演奏なので自然と腕に力が入って、かなりクタクタになる。それでも他の3人は手や声を休めることなく力いっぱい演奏する。
    これが本場のすごさだと思った。

    それから、フラメンコでもそうだがジプシールンバのカギを握るのは「歌」だ。
    ギターはそこそこ弾ければ問題ない、重要なのは歌がいろいろ歌えるかどうかということだ。
    これはサントマリーにいた時にも感じた。
    ジプシーキングスの曲、Jose Reyesが歌った歌、スペインから伝わったファンダンゴ(民謡)、カタルーニャ地方の流行歌など、何でもかんでもルンバにして歌ってしまえばこっちのものだ。フランス人はスペイン語が分かると言うわけではないので、多少の発音の違いなど全く問題ではない。
    前回にも書いたが、ネタとして突然ブルージーな音楽を演奏したりするが、これもテンポを速めて弾けば立派なジプシールンバに早代わり。要はどんな曲でもルンバで弾いてしまったもの勝ちである。

    Gitano Family
    そこへ突然「Luis、日本の歌を歌え」とJulioに振られた。
    いきなり言われても困ると思ったが、とりあえずGipsy Grooveのオリジナルである「Ole y Ola」などを歌ったら大いに盛り上がった。こういう曲は単純に楽しいので客もノリやすい。今後もこの手の曲を多く作っていこうと思った。
    曲の途中でまた別の曲に変わり、フィエスタは続いていく。様々なネタをちりばめて、客を飽きさせない。

    いちゃついているカップルがいたら近寄って甘いバラードを奏でたりする。
    で、Jr.が練習の成果を見せるべくギターソロを弾こうとすると父親のJulioが客に向かって「シーーッ!静かに!」と命令する。
    すると指揮者に従うオーケストラのように客は一気に静まり返り、Jr.の弾くギターに注目してくれる。
    これでは音響機材もいらないなと思った。

    また、「ターゲットは濃いキャラの客大作戦」は頻繁に実行された。
    カンツォーネの名曲「オ・ソーレ・ミーオ」をJulioがオペラ風に歌い、それをネタをふったら面白そうな客に歌わせる。
    始めにJulioが歌って、それに続いて客が歌うのだが、一番高い音程の部分がどうしても出せず変な声になってしまう。
    それを聞いて周りはまたもや大爆笑。

    こんな感じで延々とフィエスタは続けられた。
    それにしてもいつまで続くんだろう?と思い、時計を見るとなんと夜中の12時を回っている!!
    休憩を挟んだとはいえ、演奏は7時ごろから始まったので、実に5時間近くもこんなことやってるんだ、と感心してしまった。
    そろそろ眠くなってきたのに引き上げる客はほとんどいない、むしろ余計に盛り上がっていく一方だ。

    でも、まさに名実ともに「女房役」であるMarjoryがJulioにささやく様に語りかけ、それにうなずくJulio。
    そろそろ潮時ということだろう。
    その後数曲演奏したあと、Julioが大声で客全員に聞こえるように何か言うと、客は一斉に拍手して歓声が沸いた。
    それで最後にメンバー紹介が行われた。自分もメンバーに加えてくれたことが大変うれしかった。

    終わった時、もう1時半を過ぎていた。
    日本では全くありえない話だ。
    メンバー達はフィエスタの場から離れると、またしても全く疲れたそぶりを見せずに車へ向かった。タフすぎる。
    そして、何事もなかったかのように車に乗り込み、おしゃべりしながらJulioがハンドルを握る。さっきシャンパンたくさん飲んでただろう?!とツッコミを入れたくなったが、眠くてどうしようもなかった。

    車でどこに行くのかと言うとアルルから40kmほど離れた大都市アビニョン。
    このホリデーリゾートがある場所からも同じくらいの距離らしい。
    実は先日アビニョン→パリの空港行きのTGVチケットを購入してあり、出発がフィエスタの翌朝なのでJulioが終わったら車でアビニョンまで車で送ってくれるという約束をしていたのだ。
    実際その約束は遂行されたが、まさかメンバーみんなで行くことになろうとは思ってなかった。
    みんな疲れていて悪いな・・・と思ったがそうでもないようだ。

    車中、弾丸のようにしゃべり続けるMarjory。それに応じてJulioがマシンガンのようにしゃべり返す。はたから聞いていると夫婦喧嘩しているようにも思えるが、たまに笑いが起きたりするので、何か楽しいことでもしゃべっているのだろう。それにしても元気だな・・・。

    アルコール入りのハンドルさばきで激走すること1時間弱。
    どこをどう走っているのか分からなかったが、気がつくとアビニョンの駅前に来ていた。
    夜中の2時過ぎ。辺りは真っ暗で人の気配がしない。
    アビニョンのTGV駅は町の中心にある他の国鉄の駅から少し離れた場所にあり、余計に静まり返っているようだった。

    ここで少し不安になったのが、果たして駅に入って夜が明けるまで待つことができるのだろうか?ということだ。
    Julioも他のみんなもそれを見越してわざわざ夜中に駅まで送ってくれたのだが、駅の静けさを感じて、急に不安になった。
    車を降り、JulioとAntonieが付き添って駅の入り口まで行ってくれるようで、MarjoryとJulio Jr.とはここでお別れとなった。短い間だったがどうもありがとう!また会おう!と言って別れたが、周りの闇の不気味さに脅かされて、どこかぎこちない挨拶になってしまった。
    駅の敷地の周りはフェンスで囲まれているのだが、幸いにも入り口の一つが開いていて敷地に進入することができた。
    敷地内には広大な駐車場があるのだが、ポツポツと電灯に照らされた車の列を見ても全く人気が感じられなかった。
    JulioもAntonieも黒い衣装のままで、傍らにバックパックとギターを担いだ東洋人。この光景はいかにも怪しい。

    ふと、犬の吼える声が聞こえた。そしてその声は徐々に近づいてくる。見ると屈強なドーベルマンが2匹もこちらに向かって突進してくるではないか!
    「うおー!襲われる!!」
    と思った瞬間、奥の方から人間の声が聞こえた。

    早口でまくしたてる男女2人。どうやら駅の警備員のようだった。
    犬を退かせ、Julioに何か話しかけた。Antonieは恐れおののき後ろの方へ後ずさりしていた。

    会話がまったく分からなかったが、どうやら駅の敷地への入り口が普段は閉まっているのに、偶然開いていたので入ってきたということをしきりにJulioが説明しているようだったが、警備員たちは納得いかない様子だった。
    なんだか気まずい雰囲気になってきた。
    自分は昔ペルーという国である事情によって逮捕されたことがあるが、その時のことを思い出してしまった。
    自分ひとりで入ってきたら間違いなく連行され、尋問されたに違いない。
    しかしJulioは毅然とした態度で説明を繰り返し、やがて警備員を引き連れて歩き出した。

    入り口に戻って実際門が開いていたことを説明すると警備員たちも納得したようで、何とか難を逃れた。
    結局駅構内には入れずまた車に戻ってきてしまった。
    Marjoryたちと再会。こういうのを「バツが悪い」と言うのだろう。

    Julioが言うには一度家に帰って少し寝てからまた来ようとのことだったが、アルルからここまで40kmも離れており、ライブ後の疲れているときにそんなに世話になるのは悪い、と瞬時に判断し、自分としては「そこらへんで野宿するから大丈夫だよ」と言ってしばらく押し問答した。
    だが、Julioたちはそれを許さず、結局家に一度帰ることにした。
    あとから考えたら、仮にそこらへんで野宿して自分が何か危険な目にでもあったら重大責任であることをファミリーとしてのJulioは気にしていたのだろう。自分としてはとても申し訳ない気持ちで一杯になった。

    1時間くらいかけてJulioの自宅に舞い戻ってきた。
    見上げると、星がものすごくきれいに見えた。こんなところに住むのも悪くないな、とボーっとした頭で考えていた気がする。

    家の中に入りリビングのソファーをベッドとしてあてがわれ、「5時になったら出発するぞ」とJulioに言われ、すぐに寝に入った。

    しかしあまりぐっすり眠れずに不意に目が覚めた。
    Julioが既に起きていて、「ビューチフル・モーニン!」と皮肉をこめて言ってくれた。
    再び車でアビニョンへ。往復80kmを二回。この親切さには頭が下がる思いだ。

    うっすらと明るみだしたプロヴァンスの大地。朝もやが景色をソフトに包み込み、なんともいえない美しさだ。
    そんな中あれこれJulioと会話しながらアビニョンに向かった。
    「2度も往復してくれるのは悪いよ」と言うと「さっきのパーティーでCDがたくさん売れたんだ。足りなかった分をまたあそこに届けに行くからちょうどいい。気にするな。」と言葉を返し、決していやな態度は見せなかった。

    遠くのほうに有名なアビニョン橋が見える川を渡ると、再びアビニョン駅に到着した。
    さっきは人の姿が見えずに不気味だったアビニョンTGV駅も、この時は門が開くのを待つ人々でごった返していた。

    車を降りて、Julioが周りにいた人に話しかける。
    その後「ここで待っていれば門が開いて駅に入れる。」と教えてくれた。
    お別れのときだ。
    ちょっとウルルンと来てしまった。また大事な友人が一人増えた気がした。
    しかしまたすぐに会えるだろう。
    Julioと硬い握手をして「Adios!」と言い、別れた。


    やがて先の犬を連れた警備員がやって来て駅の門が開かれた。そして人々がそれぞれの旅の始め一歩を踏み出す。
    自分にとっては旅の最後の一歩だ。

    時間通りにやってきたTGVに乗り込み、パリの空港へ。
    そのまま日本へカムバック。

    今回の旅は長年の目標だったサントマリーの祭りでジプシーたちとギターを弾くことが達成できたし、いろいろ現地のミュージシャンとも交流することができ、1週間と言えどとても有意義な旅だった。
    是非来年も行ってみたいと思う。
    今度はGipsy Grooveのメンバーも誘って、現地集合で行ってみたい。
    サントマリーに行ったら教会の下でバンドのメンバーがギターを弾いているのを見かけた、というような状況が望ましい。
    それともパリからレンタカーを借りてファミリーとしてキャラバンで現地を訪れるのもいい。

    次回のアルルとサントマリーへの旅がどんなものになるのか早くも楽しみだ。
    少なくとも泥棒への警戒心は増幅していることだろう。

    おわり

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